◆ 「思ったことを言って何が悪い!」の問題点
他者に気を遣える人には、「思っているけど言えない」という場面があります。
言うと関係が悪化する可能性がある
立場上言うべきではない
複雑な事情が絡んで迂闊に言えない
性格的に言いにくい
自分の発言一つで今後の展開が大きく変わるかもしれない場面では、特に「言い方」に気を遣います。
「いっそ思ったままを言えたら、どんなにラクだろう」と思いますよね。
世間には「思ったことを言って何が悪い!」という態度の人もいますが、それができないのが気を遣える人の特性です。
ちなみにストーリーテリング(物語で伝える技法)では、「伝える時は裸の真実に服を着せることが大切である」と言われています。
「思ったことを言って何が悪い!」と言うのは、「生まれたままの姿で過ごして何が悪い!」と言っているようなもの、というわけです。
エチケットとして身なりに気を配る紳士淑女のように、「言い方」も洗練させていけると素敵ですね。
そんなわけで、今日は言いにくいことを伝える時に効果を発揮する、「枕詞(まくらことば)」をご紹介します。
◆ 言いにくいことを伝える時は「枕詞」から
枕詞(まくらことば)は、メッセージを伝えるための「前置き」として使われる言葉です。
(本来の枕詞は、古典に出てくる「ひさかたの」「ちはやぶる」といった表現です)
身近な例としては、「恐れ入りますが」「お手数をおかけしますが」「誤解を恐れず言うなら」といった表現があります。
枕詞を使うと、言葉の印象がガラッと変わります。例えばこんな感じです。
「社長にお取り次ぎいただけますか?」
↓
「恐れ入りますが、社長にお取り次ぎいただけますか?」
「再度メールをお送りください」
↓
「お手数をおかけしますが、再度メールをお送りください」
「目的に立ち返る方がいいと思います」
↓
「誤解を恐れず言うなら、目的に立ち返る方がいいと思います」
……枕詞があるだけで、表現が少し柔らかくなった気がしませんか?
相手に心の準備をさせて、言いにくいことでも受け取りやすくするのが枕詞の力です。
厳しい指摘を受け止めてもらいやすくなる
新しい視点で考えてもらいやすくなる
無理なお願いを聞いてもらいやすくなる
反論や衝突、誤解を防ぎやすくなる
枕詞は、定番フレーズを知っておくだけで使える場面がたくさんあります。
ここでは基本的な7つの枕詞と事例をご紹介します。
◆ コミュニケーションで特に役立つ枕詞7選
「あえて○○なことを言いますが……」
(例)
あえてネガティブなことを言いますが、その見通しでは甘いと思います
あえて失礼なことを言いますが、仕事量と報酬が見合ってませんね
あえてわかりきったことを聞きますが、なぜそれが重要なんですか?
「○○の立場から申し上げると……」
(例)
教育に携わってきた立場から申し上げると、そのやり方では人は育ちません
初心者の立場から申し上げると、もう少し気持ちを理解してほしいです
お客様の立場に立って考えると、このサービスレベルでいいのでしょうか
「個人的な意見としては……」
(例)
個人的な意見としては、私はこちらのデザインが好きです
個人的な意見としては賛成ですが、立場上OKは出せません
個人的には良いと思いますが、他の人がどう思うかはわかりません
「これを言うと○○かもしれませんが……」
(例)
これを言うと傷つくかもしれませんが、もう少し口臭に気をつけた方がいいですよ
これを言うと怒るかもしれませんが、正直あまりセンスを感じません
言わない方がいいのかもしれませんが、私はまだ納得していません
「これは思いつきレベルの発言ですが……」
(例)
これは思いつきレベルの発言ですが、いっそやめてしまうのはどうでしょう?
思いつきで話していいなら、Yさんが担当してみるのはアリだと思います
まずはたたき台ということで、提案を10ほど持ってきてみました
「例えばですが……」
(例)
例えばですが、明日の夕方とかご予定空いてませんか?
例えばですが、収入の10%を投資に回すとしたらどうですか?
例えば私でいうと、月に2冊は本を読むようにしています
「もし○○だったら……」
(例)
もし私があなたの立場だったら、今すぐパートナーに連絡します
もし時間を気にしなくていいなら、私はこれがしたいです
もしKさんがここにいたら、きっとそれはしないはずです
◆ 枕詞は、使っているうちにフィットする
最初は「この言葉を使ってみよう」と意識して試しに使ってみるのがオススメです。
使っているうちに言葉が馴染んできたり、状況に合ったフレーズが見えてきたりします。
注意点としては、使いすぎると話がまどろっこしくなってしまうことですが、最初は予防線を張っておくくらいがちょうどいいかもしれません。
相手の反応を見ながら少しずつ距離を近づけて、いずれは枕詞を使わずに何でも言い合える関係に発展していくと素敵ですね。
まずは言葉を知り、試しに使いながら、自分に合った表現を。
「言葉のドレスアップ」を一緒に楽しみましょう。