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言葉のドレスアップではないもの − 単なる言い換え・置き換えとの違い

「少し似てるけど、言葉のドレスアップではない……」


「言葉のドレスアップ」は現代の社会背景に基づいて生まれたものなので、まだかなり新しいコンセプトです。

実態や本質が正確に理解されるまでには、しばらく時間がかかるかもしれません。


これまでの自己紹介/事業紹介の場面でも、たびたび間違ったニュアンスで伝わってしまうことがありました。

新しいコンセプトやアイデアは、伝わらない経験/誤解される経験を経て洗練されていくので、とても大切なプロセスを歩んでいるといえます。


せっかくなので、いくつかドレスアップ「ではないもの」をご紹介します。

(あなたにも、伝わらなくてもどかしく感じた経験はありますか? ご自身の経験と照らし合わせ、あなたにとっての「ではないもの」を考えてみてください)


交流会風景

◆ 「オブラートに包んだ言い方」ではない


不要な衝突を避けたり、相手に配慮したりする上で、オブラートに包む言い方はとても大切です。しかし、これは「言葉のドレスアップ」ではありません。

オブラートに包む言い方の例として、京都弁を取り上げてみましょう。


「お宅のぼっちゃん、ピアノうまくならはったなあ」

(あなたのお子さん、ピアノが上手になりましたね)


京都の文化を知らない人からすれば、ただの褒め言葉としか思えず、「ありがとうございます」と返しますよね。

しかし、模範回答は「うるさくしてすみません」だそうです。

(わかるかっ)


これはいわゆる「いけずの文化」ですが、決して京都人が嫌味っぽいというわけではありません。

狭い長屋で多くの人が生活していたからこそ、お互いへの配慮を大切にした結果このような伝え方が発達した、と言われています。


「ピアノの音、もう少し静かにできませんか?」と言うと、狭い生活圏の中でぎくしゃくしてしまうかもしれません。

だから「ピアノうまくならはったなあ」ということで、気を遣っていることを示し、相手にもその意図が伝わる。これが「オブラートに包む言い方」です。


京都の街並み

同じ文化背景をもつ相手なら、確かにこれは効果的です。しかし、文化背景が異なる相手には、異なる印象を与える可能性があります。

「嫌味を言われた」と捉えられてもおかしくありません。(実際のところ、「京都人は裏で何を言ってるかわからない」と言われることもあります)


「オブラートに包む言い方」では、真意が正確に汲み取ってもらえないことや、かえって誤解を生むことがあります。

真意が伝わるように表現を工夫する「言葉のドレスアップ」とはまったくの別ものです。



◆ 「ネガポジ変換」ではない


「コップの水が半分しかない」という言い方を、見方を変えて「コップの水が半分もある」と捉える考え方があります。

ネガティブな見方をポジティブに捉え直す、いわゆる「ネガポジ変換」です。


社会人向けの学習や自己啓発の業界では、「ポジティブに考える方がうまくいく」という考え方がもてはやされます。

その方が学習者をやる気にさせやすく、悲観的な世間との対比になるからです。


しかし、本当にうまくいくかどうかの検証は、研究によって異なります。

「楽観的な人の方が行動し続けるから成功する」という説もあれば、「悲観的な人の方が注意深く行動するから成功する」という説もあります。失敗要因も両者それぞれあります。


セミナー風景

ポジティブとネガティブは表裏一体なので、どちらが正しいというわけではありません。どちらも真実であり、人によって見る側面が異なるだけです。

最終的には、個人の好みや経験則で選択するものなので、一概に「ポジティブが善」とは言えません。


「言葉のドレスアップ」は、そのような「どちらの側面を見るか」という考え方ではありません。

洗練された表現はいわば「上位互換」なので、元の表現に戻ることはありません。どちらが好みかの問題ではなく、「これしか考えられない」というのがドレスアップです。



◆ 「文学表現」ではない


「ドレスアップ」という表現は美しいため、人によっては文学的な印象を与えます。

小説や詩のような、想像力をかき立てられるような表現のことを「ドレスアップ」だと思われてしまうこともたまにあります。


実際のところ、社史や広報誌を制作する際は「ストーリー」の要素を取り入れることが多いので、表現する手段は文学と似ているところもあります。

文学に詳しい人からすればまったく別ものだとわかりますが、知らない人からすればどちらも似ているように見えるかもしれません。


文学表現との大きな違いは何かというと、「目的」の違いです。


文学表現の目的は「表現そのもの」であり、作品に対する没入感や表現の美しさが重要です。

純粋に作品として楽しんだり、内容を人と分かち合ったりするのが文学表現なので、必ずしも「意図を伝えること」が目的ではありません。

突き詰めて言えば、文学表現は筆者と読者の自己満足であり、どんな楽しみ方も個人の自由です。


文学、本、書籍、本棚

一方、言葉のドレスアップの目的は、伝える相手の認識や行動を「変容」させることにあります。

特定の相手に対して、最も効果的にメッセージを伝えるために表現を工夫するのが「ドレスアップ」の狙いです。


そこには明確なゴールがあり、集客や販売、教育や育成など、「人を動かすこと」が重視されます。

表現によってはおもしろく感じられるものもありますが、それが目的ではありません。

あくまで話し手/書き手の想いを相手に届けるのが「言葉のドレスアップ」です。


服装に例えて言うとしたら、

・文学表現は「自分の好みの服装」で、

・言葉のドレスアップは「好印象を与える服装」といえます。



◆ 真意を伝え、新しい視点を示し、人に影響を与える


これら3つの「ではないもの」と対比してまとめると、「言葉のドレスアップ」はこのようにまとめられます。


「真意を伝え、新しい視点を示し、人を変容させるもの」


・自分が伝えたい「真意」は何だろう?


・自分が示せる「新しい視点」とは?


・自分が人に求めたい「変容」とは?


言葉のドレスアップの様子

これらの視点を踏まえて伝え方を考えていくと、あなたに合った「ドレスアップ」が見つかります。

単なる言葉の置き換え/言い換えとは違う、まったく新しい表現へ、言葉を洗練させていきましょう。(具体的な方法はまた改めてお伝えします)


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